今、世界的な日本食ブームが巻き起こっています。その中でも特に日本食が受け入れられている国は、アメリカだということをご存じでしょうか?やはり日本食が浸透しているだけあって、寿司やラーメンなどの定番メニューだけでなく、懐石料理やつけ麺といったほかの国ではまだあまり見ないような料理も人気です。

では、どのようにして日本食がここまで広まったのでしょうか。

また、地域によって人気に差はあるのでしょうか。

本記事では、ジェトロ(日本貿易振興機構)が作成した「米国における日本食レストラン動向調査」を参考にしながら、アメリカにおける日本食レストランの動向について解説していきます。

日本食レストランはアメリカ全土で増加傾向

総軒数は2万軒超え

2022年12月時点では、全米の日本食レストランは2万3,064軒にのぼりました。これは初回調査時の1992年の3,051軒の約7.6倍にあたります。日本食レストランの軒数は、順調に増加していることがわかりますね。

州別日本食レストラン数TOP10

順位軒数2018年度比増加率
1カリフォルニア4,995111.8%
2ニューヨーク1,936102.3%
3フロリダ1,501118.6%
4テキサス1,197149.3%
5ワシントン1,016113.1%
6ニュージャージー893121.3%
7ペンシルバニア729150.3%
8ノースカロライナ717122.8%
9ジョージア667112.3%
10イリノイ644112.4%

「米国における日本食レストラン動向調査」の初回である1992年から一貫して日本食レストランの数が多い地域は、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州、フロリダ州などの東西海岸の都市部だそうです。

これらの地域は、最初に日本人移民が住みついた土地であり、古くから日本食を食べる文化が根付いていたことなどの様々な背景によって、ここまでの軒数の日本食レストランがあるのだと考えられます。

なぜここまで日本食レストランが多いのか?

日本人や日系人による日本食の一般化

個人の活躍

1884年、日本から北米大陸への移住が始まり、その翌年に茂田浜之助という人物がアメリカ初の日本食レストランをオープンしました。カリフォルニア州ロサンゼルスにあったその店の名前は、自身のアメリカでの名前であるチャールズ・カメからとった「カメ・レストラン」というものでした。

これをきっかけとして、同地域に日本人街「リトル・トーキョー」がつくられ、アメリカ全土で日本食が広まることとなりました。

ニューヨークでも、好田忠夫という人物が1970年代初頭に「ドージョー」という店をオープンし、それ以来約50年間にわたって、同地域を「日本食の街」へと変貌させました。

好田氏はアメリカ各地で人気の「人参生姜ドレッシング」を生み出した人物でもあり、アメリカ国内の日本食人気の立役者と言っても過言ではありません。

移民や駐在員の日本食需要

このような個人の活躍だけでなく、日本からカリフォルニアなどに移り住んできた日本人によって日本食を食べる文化が特定の地域に根付きました。

また、その移民の子孫である日系人の増加にともなって日本食を食べる人口が増え、日本食レストランへのニーズが高まりました。

加えて、カリフォルニアは物理的に日本が一番近いため、日系企業がアメリカへ進出するときの窓口となっていました。そのため、日本から派遣された駐在員やその家族の移住によって、日本産食材の需要が増え、多くの日本食品関連企業が進出しました。

これによって、ほかの地域よりも日本産食材が手に入れやすく、日本食を作りやすい土地となりました。

アジア人による日本食ビジネスへの参入

日本食は簡単に作れる?

フレンチやイタリアンなどの料理に比べ、日本食の調理は比較的ハードルが低いと考えられています。

ロサンゼルスやニューヨークなどの都市では、寿司ネタやみそ汁などの調理済みの食品に加え、中国語などの多言語対応されたレシピを簡単に入手することができます。

調理技術に関しては、現在では製造機械を利用することで握り寿司や巻き寿司が作れるようになったこと、また日本食を作るときに強い火力はあまり使わないため、設備投資が少なくてすむことから、結果として日本食ビジネスに参入する人が増えています。

日本食は儲けやすい

アメリカでは、日本食は高級なイメージを持たれています。そのため、ほかの料理と比べて単価を高く設定できるので、日本食レストランは利益率が高い傾向にあります。

たとえば、タイ料理やベトナム料理は一皿8~10ドルが相場ですが、和食や寿司のランチメニューは20~30ドルの値段をつけても妥当という認識があります。

アジア人は顔で有利

アメリカでは、ヨーロッパ系やアフリカ系の人が調理している日本食レストランよりも、アジア人の日本食レストランの方が人気になりやすいです。

アジア系の顔の人が作っていると、たとえ日本人でなくても「本格的な日本食を食べている」という気分になるからです。そのため、ほかの人種よりも日本食ビジネスを有利に進められます。

日本食レストランの進出形態:ビジネス成功の秘訣とは?

日本企業の参入

日本の飲食業界の不況が後押しとなり、アメリカに進出して成功する企業が増えています。

従来の日本から距離が近い西海岸周辺からの進出と違って、現在では東海岸を中心として店舗展開がなされています。

過去の進出では、アメリカ人に合わせたマーケティングを行わず、現地の日本人や日系人に向けた日本式のサービスを売り出したり、日本語のフリーペーパーなどを用いたりしたため、アメリカ人からの認知を得られずに閉店する店が少なくありませんでした。

しかし、最近では、SNSを使ってアメリカ人向けのマーケティング方法を研究し、英語で宣伝する店が多いです。以前までのように日本人をターゲットとするのではなく、アメリカ人を顧客として料理・サービスにオリジナリティを出すことにより、成功例も増えてきています。

現地発のレストラン

現地発の日本食レストランは、日本発のものと同じように、ロサンゼルスやニューヨークなどを起点として別の州にも店舗を展開していく傾向にあります。そのため、以前までは日本食レストランがあまりなかったテキサスやフロリダなどでも、最近では順調に増加傾向にあります。

こういったレストランはアメリカ人によって経営され、アメリカ向けのマーケティングで客集めができるため、成功例が多いです。

日本食レストランの食材の傾向

生魚

1970年代から、アメリカでカリフォルニアロールをはじめとした寿司ブームが起こりました。当時は生魚を食べる習慣がなかったため、寿司ネタを購入することも難しい状況でした。そこで、アボカドやカニカマなどで創作寿司が生み出されました。

今では、日本からの空輸によって、アメリカ全土でとても新鮮な魚を手に入れることができます。近年の資源不足に対応するために養殖された魚も、アメリカではすでに受け入れられています。

高級レストランでは日本産の米が使われています。最近では、かまどで日本産ブランド米を炊くことによって、付加価値をつける店もあるそうです。ブランド米の味が評価されることによって、需要がより高まる可能性も出てきています。

ほかの多くの店では、主にカリフォルニア産の米が使用されています。品種改良により、日本食に合う味の米も生産されています。都市部のごく一部では、米の需要をより増やすために、パンのかわりに米のバンズを使ったハンバーガーを売っている店もあります。

野菜

ほとんどのレストランでアメリカ産の野菜が使われています。植物検疫を行ううえで、日本から輸入することができなかったり、輸送コストがかさんで費用的に難しかったりなどのケースが多いため、入手しやすい現地の野菜が用いられます。

アメリカの農場では、日本食人気にともなって様々な日本野菜の需要が高まっており、育てられる種類がどんどん増えています。そのため、今では多くの農家が日本野菜を育てており、ニューヨークの各地で行われているグリーンマーケットには、小松菜や大根などの野菜が出品されています。

州別日本食レストランの動向

カリフォルニア州

アメリカ最多の日本食レストラン数誇るカリフォルニア州。特にロサンゼルスでは多様な日本食が人気で、寿司や日本酒、ラーメンなどのブームの発信地としてアメリカの日本食文化をけん引してきました。

中間所得者層をターゲットとした店が多く、大衆向けの居酒屋スタイルが定着しつつあり、成功例も散見されます。

ロサンゼルス

コロナ禍以降は、景気悪化による日本企業の駐在事務所閉鎖などで同市在住の日本人人口が減少しましたが、現地発の非日系人のビジネス参入により、多くの日本食レストランが新しくオープンしました。

上述したような居酒屋は若者人気がとても高く、ラーメンや寿司などの料理はすでに「市民権」を獲得した定番メニューとなっています。加えて、回転寿司、たこ焼きやから揚げなどのB級グルメも注目されています。

とりわけラーメンブームは現在も顕著に見られます。東京の人気店「ラーメン凪」の米国三店舗目となる「Ramen Nagi」、ゆず塩らーめんで有名な「AFURI(阿夫利)」などの日本の人気ラーメン店も続々と上陸しています。

高級日本食レストランも富裕層を中心に人気です。特に、日本の伝統的な食事形式を体験できる懐石料理が支持されています。

値段は平均で300ドル前後と決して安くはありませんが、料理ができるまでの工程を見られる店があること、料理の見た目が美しいことなどで、予約が取りにくい店も出てきています。

2022年度版ミシュランガイド・カリフォルニアでは、星を獲得したカリフォルニアのレストランの25軒のうち、10軒が寿司や懐石料理などの高級日本食レストランでした。

サンフランシスコ

コロナ禍を経て、テイクアウトが人気となっているサンフランシスコでは、ロックダウン前よりも売り上げを伸ばしている日本食レストランが多くあります。

たとえば、高級日本食レストランの先駆けである「Sushi Ran」は、パンデミック期間でもSNS の活用とテイクアウトメニューの強化、新メニューの開発、日本酒プロモーションに取り組みました。

それまでテイクアウトの習慣がなかった地元住民に、インスタグラムで料理の写真を高頻度で更新し、3割引きでテイクアウトフードを提供したところ、注文が殺到しました。

また、食事に合う日本酒のペアリングのアドバイスもすることにより、日本酒の売り上げも急増しました。

出汁ラーメンで有名な「Hinodeya」は、デリバリーサービスを強化しました。届けるまでに麺が伸びてしまうという課題を解決するために、製麺屋と協力して伸びにくい麺を開発したり、バキューム包装にしたりなどの改良を行いました。

ニューヨーク州

同州では、2022年度版ミシュランガイド・ニューヨークで星を獲得した73軒のうち、約4分の1にあたる17軒が日本食レストランでした。ここからもわかるように、高級志向の日本食の人気が高いです。

しかしその一方で、庶民的なチェーンレストランやラーメンも人気が高まっています。

チェーンレストランに関しては、まず「一風堂」が2008年に上陸し、2012年に「大戸屋」「牛角」、2016年に「つるとんたん」と続々とオープンしました。「大戸屋」は、店内の雰囲気や価格などを日本のものから少し変えて、高級志向にしています。

ラーメンの人気もとても高く、日本人経営の店に加えて、非日系人のラーメン屋のクオリティも上がっています。調理技術があまり高くなくても、業務用に販売されているスープを使って美味しいラーメンを作れる店が増えてきているようです。

つけ麺も受け入れられ始めており、特にマンハッタン周辺はラーメン激戦区となっています。

フロリダ州

フロリダで日本食レストランがあるエリアは、ディズニーワールドの観光客や地元の家族連れの客が多いオーランドや、同州最大の都市マイアミがあげられます。

ラーメンや寿司などの日本食が人気ですが、上の2つの州と比べると、日本食を提供する側が不足していることが課題です。

オーランド

オーランドでは居酒屋が人気で、日本語でそのまま「Izakaya」として定着しています。

特に人気の店は、台湾出身のLewis Lin氏がオーナーである「Susuru」という昭和レトロな雰囲気の居酒屋です。炭火で焼いた焼き鳥が看板メニューですが、ラーメンも数種類ほど取り扱っています。

日本の居酒屋で友人と楽しく食事をした思い出が忘れられず、オーランドに住む人たちにも同じような経験をしてほしいと考えてオープンしたそうです。

2022年8月には、新しく「Juju」という居酒屋をオープンし、からあげ、手羽餃子、明太子フライといった小皿料理のほか、焼き鳥、ミニボウルを酒、ビール、カクテルとともに提供しています。

ディズニーワールド・リゾート内の「Morimoto Asia」の立ち上げに協力したジュンイチ・タカゾエ氏は、2016年に「Jimotti’s」をスタートしました。東京やウェストロサンゼルス、カルバーシティなどの有名料理店で料理人を務めたあと、自らの店を立ち上げています。

華々しい経歴のシェフの店ですが、値段はとてもお手頃で、寿司、居酒屋メニュー、ラーメンなどを出しています。

マイアミ

ニューヨークなどから引っ越してきた高級志向の人が多いため、高級日本食が人気の傾向にあります。

セイジュン・オカノ氏の「Hiden」、木材を多用したモダンなインテリアが印象的な、オーナーシェフ、シュンジ・ヒヤカワ氏の経営する「Hiyakawa」、2022 年にミシュランの星を獲得した「Nossa Omakase」などが代表的な人気レストランになります。

イリノイ州

イリノイ州では、主にシカゴに日本食レストランが集中しています。人気料理はやはり寿司とラーメンです。

コロナ禍での治安悪化によって、一部の高級店を除いて、郊外に出店する店が増えています。また、プロフットボールチームのベアーズの本拠地スタジアムが市内から郊外に移転するということなども、郊外への出店を後押ししているようです。

パンデミック期間の2021年4月にシカゴのダウンタウンにオープンした「Hinoki Suginoko」は、多くの賞を受賞したOtto Phan 氏とGustavo Barahona 氏の2人の料理人による寿司を中心とした高級日本食レストランです。

この店の人気の理由は、フロアごとに異なるコンセプトとメニューを扱っていることでしょう。1階では居酒屋のような雰囲気で、アラカルト料理を提供しています。2階ではダイニングスペースに加えて、8席ほどのカウンターを用意し、江戸前寿司を提供しています。

Gustavo Barahona 氏は「Sushi Hoshi」というレストランも経営しています。こちらでは、カジュアルな寿司ロールを中心として、日本食を提供しています。

ラーメンに関しては、2010年オープンのバークシャーポークの豚骨を 100%使用した、とんこつベースのラーメンを扱う「Wasabi」や、その姉妹店であり2015年にオープンした鳥白湯ラーメンの「Ramen Takeya」が代表的な店となっています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。本記事では、アメリカにおける日本食レストランの動向について解説しました。

アメリカにおいて日本食の価値が認められ始めたと言っても過言ではありません。十数年前にはまだ珍しい料理であり、日本食の要素を取り入れたフュージョン料理がもてはやされていました。

しかし、今やアメリカでは、日本食の地位が向上しているのは、まぎれもない事実です。

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