近年、世界各地で「オーバーツーリズム」という言葉がひんぱんに聞かれるようになりました。オーバーツーリズムとは、観光客が一つの観光地にとても多く集中し、その結果として地域の環境や住民の生活に悪影響をあたえる現象のことをいいます。

この現象は、とくにインスタグラムなどのSNSでの拡散や、安い航空券の定着などにより観光地が有名になるにつれて見られるようになります。

例えば、スペインのバルセロナやイタリアのヴェネツィアは、オーバーツーリズムの代表的な例として知られています。こういった都市では、観光客の急増によって地元の生活環境が圧迫され、住民のあいだで観光に対する反感が広がっています。

同じように、日本でもいくつかの観光地がオーバーツーリズムの問題に直面しています。本記事では、とくにオーバーツーリズムが問題となっている京都について説明していきます。

オーバーツーリズムの影響

環境への影響

オーバーツーリズムによる深刻な被害のひとつは、環境への負荷です。観光客の増加により、自然環境が破壊されるケースが多く報告されています。富士山のゴミのポイ捨てや、沖縄のサンゴ礁の破壊が有名な例です。

このような地域では、観光客が不適切な行動をとることにより、自然が回復不可能なダメージを受けることがあります。また、交通量の増加や施設の開発による大気汚染や水質汚染も問題とされています。

地域社会への影響

オーバーツーリズムは、地元住民の生活にも大きな影響を与えます。たとえば、観光地周辺の住宅価格が高騰し、地元住民が住みにくくなる「ジェントリフィケーション」がおこることがあります。

また、観光客の行動が地元の文化や生活様式にあわず、住民との摩擦が発生することも少なくありません。京都の祇園地区では、観光客による迷惑行為が地元住民のあいだで問題視されており、地域社会の結束がゆらいでいます。

文化的な影響

オーバーツーリズムは、地元の伝統や文化に影響をあたえることもあります。観光地が「ディズニーフィケーション」と呼ばれる施設の商業化にさらされることで、地元の伝統的な文化が観光客むけのものに改変されるリスクがあります。

京都では、伝統的なおまつりや行事が観光客むけのショーに変わりつつあるという意見もあります。また、地元の職人が観光客のニーズにこたえるために伝統的な技術や表現を変えることもあり、文化の本質がうしなわれる可能性があります。

日本の観光地におけるオーバーツーリズム:京都

背景と現状

京都は日本の古都として、世界中の観光客から高い人気をほこる都市です。古くから日本の文化と歴史が息づく場所であり、清水寺や金閣寺、祇園といった有名な観光地が多く存在しています。

さらに、伝統的なおまつりや茶道、舞妓文化などが、京都独自のユニークさを形づくっており、年間をつうじて国内外から多くの観光客がおとずれます。

しかし、あまりにも人気になりすぎたため、京都はオーバーツーリズムの有名な一例としてひんぱんに取りあげられています。とくに、春の桜や秋の紅葉シーズンになると、観光客が集中し、観光地や市内全体で混雑が発生します。

観光客の増加にともない、地元住民の生活にもさまざまな影響がおよんでいます。

祇園地区の問題

京都の中心に位置している祇園は、舞妓文化や伝統的な家屋がならぶエリアとして知られ、多くの観光客がおとずれています。しかしこの地域では、観光客によるマナーの問題が見られます。

舞妓さんを無断で撮影する「カメラマンハンティング」や、私有地への無断の立ちいり、騒音問題などが多く報告されています。これにより、地元住民や舞妓さんたちの日常生活に支障がでるケースも少なくありません。

祇園の住民たちは、こうした観光客の行動に対して不満を抱いており、地域コミュニティと観光客のあいだで摩擦がうまれています。

市や地元団体は、観光マナーの向上をはかるためのキャンペーンを展開し、ポスターや看板で訪問者に対して注意喚起をおこなっていますが、いまだに問題は解決していません。

環境への影響

観光客の急増は、京都市の環境にも大きな影響をおよぼしています。

たとえば観光客が集中する嵐山地区では、トイレやゴミ箱の不足が原因で、公園や川沿いにゴミがちらかっているケースが増えています。

また、観光バスやレンタカーが増加したことで、交通渋滞や排気ガスの問題もでてきています。こうした環境負荷は、京都の景観や市民の健康に悪影響を与えかねません。

さらに、人気の観光スポットである清水寺のまわりでは、多くの観光客が歩くことによって石畳の道がすり減り、修復が必要になるケースもあります。これにより、歴史的な景観が損なわれるリスクが高まっており、文化財の保護を急ぐ必要がでています。

経済的影響とジェントリフィケーション

観光産業は京都にとって重要な収入源であり、多くの地元企業や店が観光客をターゲットにビジネスを展開しています。

しかしその一方で、観光客の増加がもたらすジェントリフィケーションの問題もでています。観光地周辺の地価や家賃が高騰し、地元住民が住み続けることが困難になるケースが増えています。

とくに若年層や低所得者層が中心部からはなれざるをえない状況が発生しており、地域のコミュニティが分けられてしまう可能性があります。

また観光客向けの店が増えることで、地元住民が日常的に利用していた商店が閉店し、生活に必要な商品やサービスが手にはいりにくくなる問題も出てきています。これにより、観光業の発展が地域社会にあたえる負の影響がだんだんと大きくなってきています。

解決策と取り組み

このようなオーバーツーリズムに対処するために、日本各地で持続可能な観光への取りくみが進められています。

たとえば、京都市ではひとつの場所に観光客が集中しすぎることがないように、観光地を中心から郊外まで広げる「観光ルートの多様化」がすすめられています。

また、京都府では観光税の導入が考えられており、これにより得られた資金を観光地の維持や環境保護に活用する計画が立てられています。

観光客の意識改革

オーバーツーリズムの問題に対処するためには、観光客自身の意識改革も重要です。

たとえば、おとずれる季節や時間帯を工夫することで、混雑をさけ、地域への負担を減らすことができます。オフシーズンに旅行を計画することで、観光地の混雑をさけ、より快適な旅行をすることができるでしょう。

また、観光地でのマナーを守ることも大切です。ゴミの持ちかえりや、地元の習慣を考えた行動を心がけることで、地域社会との調和をはかることができます。

個々の観光客が責任ある行動をとることにより、オーバーツーリズムの影響を最小限におさえることができるのです。

地元の取りくみ

京都市や地元の観光業者は、オーバーツーリズムの問題に対処するためにさまざまな取りくみをおこなっています。

たとえば、さきほど説明した観光客の分散をすすめるために、中心部からはなれた郊外の観光地を積極的にPRし、新たな観光地をつくりだす取りくみがすすめられています。また、観光シーズンをずらして旅行することをうながすキャンペーンや、観光客に対して環境保護の重要性を気づかせる活動もおこなわれています。

このような持続可能な観光の取りくみがすすむことで、地域社会と観光業のバランスがとれた共存が可能となり、京都の魅力を守りつつ観光産業を発展させることが期待されています。

まとめ

オーバーツーリズムの問題を解決することは、日本の観光業の未来を見据えた重要な課題です。持続可能な観光を実現するためには、観光企業や地域社会が一緒に解決にむけて取りくむ必要があります。

たとえば、観光資源の保護と地域経済の発展を両立させるための新しいビジネスモデルの開発がもとめられています。さらに、観光客の意識改革も不可欠です。

観光客が「責任ある観光客」としての自覚をもち、地域社会や環境への思いやりを行動に反映させることが必要になってきます。

また、地域社会と観光業が共存できる環境をととのえるためには、地元住民と観光業者の間でのコミュニケーションが重要です。観光のメリットとデメリットを共有し、地域社会全体で観光業をささえる意識をもつことがもとめられます。

観光地においては、観光客の増加に対応するためのインフラの整備や、観光による影響を最小限におさえるためのガイドラインの設定が不可欠です。

これらの取り組みが進むことで、観光業と地域社会のバランスが取れた共存が可能となり、日本の観光地が持続的に魅力を伝えていくことができるでしょう。

終わりに

外国人にかかわるデータなどを詳しく知りたい、という方は、ぜひ「Guidable Research(ガイダブル・リサーチ)」をお試しください。日本でもっとも多くの外国人人材が登録しているともいわれる「Guidable Jobs(ガイダブル・ジョブス)」から独自のデータを算出できます。

興味をお持ちの方は、ぜひいちどお問合せください!